アルコール提供店の商業施設への入店事情

バルや居酒屋といったアルコール提供店を経営するに当たって、最も重要なのは立地であろう。駅から近く電車で帰り易い場所、学生街やオフィス街の導線にある場所、所得の高い人が集まりやすい場所等それぞれの希望はあると思う。その店のコンセプトやターゲットによるが、求められる立地条件として非常に多いのは「アクセス」と「集客力」の2点ではないか。これらを高水準に満たしているのが商業施設、ショッピングセンターである。電車でのアクセスであれば駅直結型、車の場合は郊外型と場所にもよるが足が届きづらい場所には存在せず、また、ファミリー向けはもとより最近ではGINZA SIXやミッドタウン日比谷等、仕事帰りでも立ち寄れる大人向けの施設も多数オープンしている。施設毎に集客のターゲットは違えど、こういった施設は非常に集客力の高いスポットとなっている。

それでは、アルコール提供店がこのような商業施設へ入店することは「アリ」なのか。

①まず、居酒屋形式はテナント入店数としては少ない

予め理解しておかなければならないのは、アルコール提供店、俗に言う居酒屋(形式は多々あるがアルコールをメインに提供する店を便宜上「居酒屋」と定義する)は、商業施設のテナント数としては少ない。理由としてはこの業態は大衆的ではないからといえる。商業施設を管理する側の目線としては、「誰でも楽しめる空間の提供」を考え、テナントを誘致する。女性向けのアパレルや雑貨店もあれば子供服もあり、紳士服店もあれば本屋もある。何よりも集客力が重要な商業施設は、男性も女性も若者もお年寄りも年齢問わずどこかで楽しめる場所作りをしているのである。これが前提であるため、飲食店の構成も同様に考える。子供との食事がしづらい居酒屋タイプは、来店のハードルが高く感じられ避けられる傾向にある。商業施設のレストランフロアでは他の飲食店達が一箇所に集合しているが、集客力は高い一方で競争も激しくなるため、居酒屋タイプのような一定のハードルのある店は、店選びの選択肢からはずされるケースも多いだろう。せっかく商業施設という集客力のある建物にいるにも関わらず、アルコールというハードルによって来客の母数を自ら減らしてしまうことにもなるのである。

一般的に商業施設のテナント設定は「誰でも入りやすく、減点の少ない飲食店」が該当するため、アルコール提供に主眼の置かれた居酒屋タイプは存続が難しいといわざるを得ない。

②それでもショッピングセンターに出店を狙いたい

上記の状況を踏まえたうえで、商業施設への出店を考えている場合、動くべくは以下2点である。

■フード、デザートメニューを強調する。

①にて述べたとおり、アルコールメインでは訪問客の母数を狭めてしまう。そのため、フードやデザートをメインに見えるPRが必要である。但し、アルコールメニューを減らす必要までは無い。店頭看板や店内メニュー等、人目に触れ易い箇所にフードメニューをメインに据えることで、敷居の広い入り口とすることが出来る。例えば、㈱HUGEが運営する「リゴレット」は、主にイタリアン・スパニッシュバルとして様々な場所へ展開しているが、二子玉川ライズには「リゴレットスパイスマーケット」として運営している。得意のハイエンドな空間作りはそのままにフードは肉や魚のメイン料理が多く、シェアしやすい。またデザートも含め殆どの品がイラスト付きのため、料理のイメージがしやすくオーダーの敷居も低く感じられ、子連れだけでなく老人まで含めた3世代の取り込みも考えられているところが見て取れる。姉妹店展開の際に、その出店地域によってコンセプトを変えるのは一般的な手法といえるが、地域性だけでなく商業施設に集う幅広い客層までを考慮しメニュー構成とそのPR方法についてまでも考える必要がある。店のブランドやメニューの方向性を変えることなく、顧客のニーズに対し的確にアジャストしたリゴレットのアプローチはこの好事例といえるだろう。

■大人向けの施設もしくはその近辺への出店を狙う。

近年は東京オリンピックに向けた都市開発が相次ぎ、都心部でも再開発と併せた商業施設の開業が相次いでいる。都心部、つまりはビジネスの中心地の商業施設であれば、居酒屋タイプの出店は狙いやすい。近年では六本木ヒルズに始まり、コレド室町や前述したGINZA SIXやミッドタウン日比谷、渋谷STREAM等、大人が仕事帰りに立ち寄って買い物や飲食を楽しめる場所に大きな価値が生まれている。こういったオフィスワーカーをターゲットにした商業施設への出店が叶えば、飲食経営の上昇気流に上手く乗ることも可能であろう。但し、こういった知名度とグレードの高い商業施設は出店のハードルも非常に高い。他のアパレルやブティックにも霞むことのない、ブランド力のある飲食店が求められるからだ。

そこで狙いたいのは、こういった商業施設付近にある小規模な飲食専用のビルである。都心は飲食に向かう客も多い反面、土地が狭く有効な平面スペースが限られている。このため、店を縦に重ねて上へ伸ばして建設する飲食店専用と称するビルが多い。こういった建物への入店にも価値がある。商業施設は大まかなターゲット層は定めているものの、前述のとおり、基本的には「誰でも楽しめる空間の提供」を目指している。集客力の向上こそが施設管理側の責務であるのだが、一方で不利益を被るのが飲食店に向かう訪問客である。一人当たりの店内滞在時間が長い飲食店は、施設の集客力が向上すればするほど回転率が悪化するため、入店が叶わない難民の数が増加する。一方で、施設管理側は集客数の向上を目指し日夜施策に取り組んでいるわけであるから、「商業施設内での飲食」というテーマで考えると、施設側と来客側で利益相反が生まれている状況といえるのである。そしてこの構図は営利を目的としている以上簡単に変えることができない。

そこで動くべくは、この飲食店難民たちの受け皿として、施設近辺の飲食ビルへの入店である。商業施設の飲食店に向かう人間の性質を考えると「特定の店(商業施設に入店しているあの店)に行きたい」「何を食べたいか決めていないけど、選択肢の中から自分で店を選びたい」「特にこだわりはないため、とりあえず店選びをしやすい場に行きたい」といった3点に大別されるのではないか。つまりは、「店を一点集中型」か「店選びに低関心型」のいずれかが多いのである。

これらを考えている人間が目指した商業施設に向かい、そこで入店できなかった場合、店を選ぶ基準やハードルは一気に降下する。一点集中型は目当ての店には入れなければ、店選びの関心は低くなることが考えられ、低関心型は更に低関心が加速する。そこで、飲食ビルである。飲食ビルはテナントが飲食のみであるため、集客力は低い一方、商業施設のような過剰な人口密度の高まりはない。また、複数の飲食テナントが並んでいる状況は商業施設のレストランフロアと構造は同等であり、上記の「店選びに低関心型」の元々の需要にも合致している。近年では野村不動産㈱による「GEMS」という飲食専門ビルがシリーズ化して開発を進めている。また、米国から流れてきた高級フードコート「フードホール」の業態に倣った「FOOD HALL BLAST! TOKYO」もオープンした。限られたスペースに、飲食のみをフックに開業する施設やビルが増加傾向にあるのである。確かに大量消費社会で物や店に溢れた現代日本では、飲食店も一つの場所に極所集中させることのメリットは非常に大きく、こういった場所への出店は世の潮流に即した経営判断と言えるだろう。

③重要なのは「商業施設の使い方」

前述のとおり、商業施設は集客力が非常に高いスポットであるため、この集客効果を最大活用したいものである。そこで考えなければならないのは、商業施設の「コンセプト」、「ターゲット層」、そして、近隣のビル環境である。商業施設の思惑と周辺を取り巻く環境を充分に理解したうえで、出店場所を見極めることが出来れば、店の場所取り合戦はリードできると考えていいだろう。

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